茨城県常陸太田市にある「空庵(KU-AN)」という実験施設で、オフグリッド発電に関するワークショップに参加しました。
空庵は、「超小集電(Micro Power Collection: MPC)」と名付けられた持続可能なエネルギーの開発と普及を目的として建設されました。主宰者である中川聡先生は、トリパッドデザイン社の代表取締役であり、名古屋大学の客員教授、そして元東京大学の特任教授です。
中川先生の指導のもと、参加者たちは特殊な超小集電セルを使って、LEDライトが点灯する風鈴づくりに挑戦しました。
空庵は、自然に囲まれた場所に位置し、2021年に設立されました。ヒノキ材で造られた骨格にガラスが貼られた建物で、夜間には超小集電技術で点灯する800個のLEDライトが輝きます。この施設では、1500個の集電セルを使い、日々の実験を通じて電力供給の安定性を検証しています。
施設の運営には地域住民も積極的に参加しており、地域との信頼関係が深まっています。例えば、地域の猟師たちと協力して農作物の獣害被害対策に超小集電技術を利用したセンシング技術を開発するなど、地域密着型の実験が行われています。
中川さんは現在、空庵をさらに発展させた「オフグリッド・デザインラボ SHí-ZEN」の建設を進めています。これは、超小集電技術を用いて生活できる実験型住宅であり、企業とのコラボレーション研究も予定されています。また、中川さんは今後、より大規模な電力供給を実現し、暮らしに必要な電力を提供することを目指しています。
超小集電技術は、あらゆる自然物を媒体として、集電材(電極)を介して、微小な電気を収集する技術です。土壌、水中、植物、生体内、産業廃棄物などから微小な電気を収集することができます。具体的には、地面にプラス極用とマイナス極用の電極「コンダクター」を突き刺すことで、微小な電圧を発生させ、継続的に電力を得ることが可能です。
超小集電の原理はボルタ電池に似ており、異なる材料を電極(例えばスレンレスと亜鉛)として使用し、電解質を通じて電子を移動させることで電気を生成します。この技術を用いて、土や水などの自然物を介して電気を収集することが可能となります。研究の過程で、“土”が電気の収集に最も適していると判明。土は自然界の最終形態とも言える存在であり、あらゆる物質が最終的に還る場所です。土を電気のアースとして利用する逆転の発想により、微小な電気を効率的に集めることができることが明らかになりました。特に、酪農堆肥や食品ロスから作られる完熟堆肥が優れた媒体となり、安定的に電気を収集できることが確認されました。(茨城県稲敷市内で完全放牧による酪農を行っている上野農場と実証実験を行っています)
超小集電は、天候や時間帯に影響されず、災害時や送電網から切り離された環境での電力供給を実現します。超小集電は、天候や時間帯に左右されずに継続的に電力が得られることから、災害時や送電網から切り離された無電環境(オフグリッド)における生活照明やセンシング、情報通信など社会や暮らしを支援する技術として、大いに期待されています。この技術の最大の利点は持続可能性です。自然界の微弱なエネルギーを活用することでエネルギー供給が持続的であり、化石燃料や大規模なエネルギーインフラに依存せず、環境への負荷を最小限に抑えることができます。また、地理的条件や天候に影響されず、さまざまな環境下での電力供給が可能であるため、災害時の電力供給やリモートエリアでの農業活動や環境モニタリング、ポータブルデバイスへの持続的な電力供給など、幅広い応用分野があります。
中川先生をはじめとする研究者たちは、集電セルの効率向上や、収集した電力を効果的に蓄電・利用するためのチャージコントローラシステムの開発、腐葉土を利用した持続可能なエネルギー源の研究など、技術のさらなる向上と実用化を目指して研究を進めています。