日立市のシビックプライド──まちへの誇りが未来をつくる

地創研が本拠地を置く「日立市」は、ただの工業都市ではありません。ここには、自然と産業が交錯し、人々の努力と知恵が重ねられてきた物語があります。そしてその物語こそが、いま“シビックプライド(市民の誇り)”として、静かに、しかし確かに息づいています。

6月28日に開催された「エコフェスひたち2025」は、まさにそのシビックプライドを再確認する絶好の機会でした。今年のテーマは「未来へつなぐまちづくり」。私たち「大煙突とさくら100年プロジェクト」も参加し、100年前の公害克服の歴史と、地域と企業が力を合わせて築いてきた“日立らしさ”を伝える展示を行いました。

日立の大きな誇りの一つに、1914年に完成した世界一の高さを誇る「大煙突」があります。これは、鉱山から排出される煙によって生じた深刻な煙害に立ち向かうために建設されたものです。空が曇り、山が枯れ、まちが荒れていた中で、企業と市民が対話を重ね、困難を乗り越えた末に建てられたこの煙突は、単なる技術の象徴ではなく、協働と信頼の証でした。

その後、煙害で荒れた山々を緑に戻すために始まった大規模な植林活動では、伊豆大島原産のオオシマザクラが活躍しました。煙に強いこの桜は、春になるとまちを白や淡いピンクに染め、市民の目と心を和ませてきました。こうして生まれた「桜のまち日立」という風景も、また市民の誇りの一部なのです。

しかし、時が経つにつれ、こうした歴史や想いは、徐々に記憶の彼方に追いやられているのも現実です。エコフェスの会場で行った「日立が発展したのはどの鉱山か?」というクイズでは、多くの子どもたちが「石炭」や「鉄」と答え、「銅」と正解した人は思いのほか少なかったのです。私たちが当たり前のように思ってきた“まちの記憶”が、次世代に必ずしも伝わっていない──その事実に気づかされました。

だからこそ、いま改めて「シビックプライド」が問われているのだと思います。それは過去を美化することではなく、先人たちの歩みを知り、今を生きる私たちがどのようにこのまちに関わり、未来に橋を架けていくかという姿勢のことです。

まちは、そこに住む人の“まなざし”で変わります。子どもたちが「私は日立の子でよかった」と言えるように、大人たちが語り継ぎ、守り、そして新たな価値を創っていくことが求められています。

大煙突も、さくらのまちも、銅山の記憶も――すべてはこの日立というまちの、かけがえのない物語。その物語を誇りとして胸に抱き、未来へと手渡していくこと。それが私たち一人ひとりにできる“シビックプライドのかたち”なのではないでしょうか。

これからも、このまちを想い、このまちを語り、このまちに誇りをもって生きていきたい。そう心から願っています。